非公式日本語訳 — 原著者・発行元による公式の翻訳ではありません

Eliezer Yudkowsky — 非公式日本語訳

企業やナノ装置に進化はない

No Evolutions for Corporations or Nanodevices

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物理法則も数学の規則も、適用されなくなるわけではない。だから、進化は止まらないと思う。そこからさらに、牙も爪も血に染まった、とも称される自然は、単に次の段階へ進むのだと思う……。

[ダーウィン的進化をなくすのは]重力をなくそうとするようなものだ。資源が有限で、特徴を受け継がせられる複数の主体が競争しているかぎり、選択圧は存在する。

進化生物学でも、ほかの多くの分野と同じく、定性的でなく定量的に考えることが重要だ。有利な突然変異は「広がることもあるが、いつでもではない」のだろうか。ならば、超能力は有利な突然変異なので、広がると予想するだろう? だがこれは、定量的でなく定性的な推論だ。Xが真ならYが真。超能力が有利なら、広がるかもしれない。「進化は愚かだ」で、私は有利な突然変異の固定確率の式を説明した。おおよそ適応度上の優位の2倍、3%の優位なら6%である。めったに役立たない突然変異が広がる可能性はきわめて低く、複雑な適応が、絶えず使われることなしに生じるのは事実上不可能だと気づかせるのは、こうした数値的な思考だけだろう。超能力が本当に存在するなら、誰もがいつでも使っていると予想すべきだ。驚くほど便利だからだけでなく、そうでなければ、そもそも進化できなかったからだ。

「資源が有限で、特徴を受け継がせられる複数の主体が競争しているかぎり、選択圧は存在する」。これは定性的な推論だ。選択圧はどれほどなのか?

進化生物学でもっとも重要な式には候補がいくつかあるが、私はプライス方程式を選ぶ。もっとも単純な形では、次のようになる。

∆z = cov(vi,zi);
形質の平均値の変化 =
共分散(相対適応度、形質)。

これは非常に強力で一般的な式だ。たとえば、身長に関わる特定の遺伝子を、変化する形質Zにできる。その場合、この遺伝子をもつ確率の変化は、その遺伝子と生殖適応度との共分散に等しい、とプライス方程式は言う。あるいは、特定の遺伝子とは別に、身長そのものを形質Zと考えてもよい。その場合、次世代の身長の変化は、身長と相対的な生殖適応度との共分散に等しい。

(少なくとも、身長が単純な仕方で遺伝するかぎり、これは正しい。栄養が改善し、同じ遺伝子型でも背が高くなるなら、プライス方程式には補正項を加える必要がある。多数の遺伝子間に複雑な非線形の相互作用があるなら、補正項を加えるか、さもなければ、式から何も見通せなくなるほど複雑な計算をしなければならない。)

プライス方程式のさまざまな形や導出を学ぶと、多くの洞察が得られる。たとえば、最終的な式では、形質の平均は絶対適応度でなく、相対適応度との共分散に従って変化する。これは、フロド遺伝子が種全体を絶滅から救っても、平均的なフロド形質は増えないことを意味する。フロドの行動は、すべての遺伝子型に等しく利益を与え、相対適応度とは共変しなかったからだ。

プライスは、自分の方程式が利他性について意味することに強く心を乱され、自殺したと言われる。もっとも、ほかの問題もあったかもしれない。(Overcoming Biasは、プライス方程式を学んだ後に自殺することを勧めてはいない。)

この式をじっくり考えると、「有限の資源」と「特徴を受け継がせられる複数の競争主体」だけでは、進化を生むのに十分でないと気づくことができる。「自分自身を複製するもの」だけでは十分条件にならない。「複製するもの同士の競争」でさえ、十分ではない。

企業は進化するだろうか。確かに競争する。ときには子を分離して生む。資源は有限だ。死ぬこともある。

だが、企業の子は、どれほど親に似ているのか。企業の個性の多くは主要な役員に由来するが、CEOは分裂して増えることができない。プライス方程式が作用するのは、形質が世代を越えて遺伝する範囲に限られる。玄孫が高祖父母にあまり似ていなければ、累積する選択圧は4世代分を超えない。4世代より前に起きたことは、ぼやけて消えてしまう。確かに、企業の個性はスピンオフ企業に影響しうる。だがそれは、アナログでなくデジタルで、1世代あたり1塩基につき10−8の誤り率で伝達できるDNAの遺伝性とは、まったく違う。

DNAの遺伝性は何百万世代も続く。だから純粋な進化で複雑な適応が生じうる。デジタルのDNAは、3%の優位をもたらす遺伝子が768世代かけて広がり、さらにそれに依存する別の遺伝子が現れるまで、十分長く保たれるのだ。仮に企業がデジタルな忠実さで複製しても、今の時点では、せいぜいRNAワールドに入って10世代目だろう。

もちろん、無能な企業が倒産するという意味で、企業は選択される。論理的には、これによって、有能さに寄与する特徴をもつ企業を観察しやすくなる。同じ意味で、形成後すぐに新星爆発を起こす恒星は、夜空を見上げたときに見える可能性が低い。だが、恒星の力学上の偶然で、一つの星が別の星より長く燃えても、将来の星が長く燃える可能性は高くならない。その特徴が、ほかの星にコピーされないからだ。未来の天体物理学者が、長く燃えるのを助けるよう設計されたかに見える、恒星の複雑な内部構造を発見するとは期待すべきでない。その種の機械的な適応には、一度きりのふるい分けより、はるかに大きな累積的選択圧が必要だ。

「アインシュタインの傲慢」で紹介した原則を思い出してほしい。一般相対性理論を思いつくのに必要な証拠の大部分は、その特定の方程式をアインシュタイン個人の注意に上るところまで引き上げるために必要だった。意識的に検討する可能性から99.9%の確信まで引き上げる証拠は、それに比べればわずかだった。同じように、指定するのに数百ビットかかる企業の複雑な特徴は、主に人間の知性が作るのであって、忠実度の低い進化の数世代が作るのではない。生物では突然変異は純粋に無作為で、進化が何千ビットもの累積的な選択圧を与える。企業では、人間が知的に設計した千ビット規模の複雑な「突然変異」を提供し、その後の「倒産したか否か」という選択圧は、目の前のものを説明する追加の数ビットを担うにすぎない。

生物でなく、人工の高度な分子ナノテクノロジーなら、何千世代にもわたり、デジタルな忠実さで自らを複製できるはずだ。そうなれば、プライス方程式は足がかりを得るのだろうか。

相関は共分散を分散で割ったものなので、AからBをよく予測できるなら、Aが0から9の範囲を動き、Bは50.0001から50.0009までしか動かなくても、強い「相関」がありうる。プライス方程式が働くのは、形質と生殖の共分散によってであって、相関によってではない! 形質の分散をきわめて狭い範囲に圧縮できれば、共分散は大幅に下がり、形質の累積的な変化も下がる。

フォーサイト研究所は、ほかの妥当な提案とともに、どのナノ装置も複製の命令を暗号化すべきだと提案している。しかも、符号化された命令の1ビットを変えるだけで、復号された出力が完全にめちゃくちゃになるように。作られるナノ装置がすべて分子レベルで正確なコピーで、さらに、子は孫を作るために元の暗号化命令のデジタルコピーを受け取るので、組立ラインでの間違いが遺伝しないなら、ナノ装置は大して進化なんかしないだろう。

それでも、プリオンの心配は残る。暗号化命令とは別に自己複製する、組立の誤りだ。ロボットアームが、自分と同じものを組み立てるための炭素原子をつかみ損ね、それによって子のアームも同じように炭素原子をつかみ損ねる、といったことが、暗号化命令がすべて一定でも起こる。だが、この種の伝達可能な誤りと、より高い繁殖速度には、どれほどの相関がありそうだろう。あるナノ装置が1000秒ごとに自身のコピーを作り、新しい装置は魔法のように効率がよくなって、999.99999秒ごとに複製するとしよう。プリオンがあるだけでなく、有利なプリオンなのだ。取り付ける炭素原子が一つ少なくて済むのだから。これは生殖における大した分散ではなく、したがって共分散も大したものにはならない。

それに、ナノ装置はどれほど頻繁に複製する必要があるのか。太陽系に存在する以上、いや、可視宇宙に存在する以上の原子を使えるのでないかぎり、わずかな世代で資源の壁にぶつかる。「有限の資源」は進化の十分条件ではない。資源を解放するため、集団のかなりの割合が死ぬことが、頻繁に繰り返される必要がある。実際、「世代」とは整数というより、集団のうち新たに生まれた個体が占める割合の積分なのである。

私にとって、グレイグーやナノ技術兵器のもっとも恐ろしい点はここだ。地球全体を食い尽くし、それでおしまいになり、その後は何も面白いことが起きないかもしれない。ダイヤモンドは、ファンデルワールス力でつなぎ止められたタンパク質より安定しているので、グーが自分の一部を組み直す必要があるのは、小惑星がぶつかったときくらいだろう。プリオンが、そもそも進化を支えられるほど強力な仕組みだとしても——デジタルDNAでさえ進化は十分遅いのに!——グーが地球を食べてから太陽が死ぬまでに、1.0世代さえ経過しないかもしれない。

まとめると、次の性質をすべて備えているなら、

そのとき、進化の力で複雑な適応を生み出すに足る、大きな累積的選択圧が得られる。