シンギュラリティについての議論は、大きく三つの考え方に分かれつつあるように思う。「変化の加速」「事象の地平線」「知能爆発」だ。
- 変化の加速:
- 基本的な主張: 私たちの変化に対する直感は線形だ。これまで自分が生きてきた間に起きたのと、おおむね同じ程度の変化が起きると考える。だが技術の変化は、それ自体が次の変化を促すため、加速する。今の変化は500年前より速く、500年前の変化は5000年前より速かった。これからどれほどの変化が起きるかを考えるうえで、最近の過去は頼れる目安にならない。
- 強い主張: 技術の変化は滑らかな曲線を描き、典型的には指数関数に従う。したがって、新しい技術がいつ登場し、人工知能の創出といった重要な節目をいつ越えるかを、かなり正確に予測できる。
- 提唱者: レイ・カーツワイル、アルビン・トフラー(?)、ジョン・スマート
- 事象の地平線:
- 基本的な主張: 過去10万年、人間は地球上で最も賢い知性だった。社会と技術の進歩は、すべて人間の脳が生み出した。まもなく技術は、人間の知能を上回るものを作れる段階に達する(脳とコンピューターをつなぐインターフェース〈脳・コンピューター・インターフェース〉や、人工知能によって)。その結果生まれる未来は、たいていのSFよりもはるかに奇妙なものになる。驚くほど目新しい道具が登場するという程度には収まらない、質的に異なる未来だ。
- 強い主張: 人間を超える知性が何をするかを知るには、自分自身が少なくともそれと同じくらい賢くなければならない。ディープ・ブルーがチェスでどの手を指すかを知るには、自分もディープ・ブルーの水準で指せなければならない。したがって、人間より賢い知性が生まれた後の未来は、まったく予測できない。
- 提唱者: ヴァーナー・ヴィンジ
- 知能爆発:
- 基本的な主張: 技術を生み出してきたのは、常に知能だった。技術によって人間の知能を大幅に上回れるなら――現存する最も賢い人間よりも賢い心を作れるなら――、これで輪が閉じ、正のフィードバック循環が生まれる。脳・コンピューター・インターフェースで知能を強化された人間は、その知能で何をするだろう? 有力な予想の一つは、次世代の脳・コンピューター・インターフェースを設計する、というものだ。知能の強化は、典型的な転換点である。賢くなればなるほど、自分をさらに賢くするために使える知能も増える。
- 強い主張: この正のフィードバック循環は、臨界に達した核分裂の連鎖のように、一気に爆発する(FOOM)。一回の知能向上が、同程度のさらなる向上を平均で1.000回より多く引き起こすのだ。ただし、滑らかな指数関数の軌道をたどるとは限らない。技術進歩の時間尺度は、人間のニューロンに固有のものから、トランジスタ(あるいは超トランジスタ)に固有のものへと短縮される。向上の勢いは急激に増し、物理的な限界にぶつかる前に、超知能――人間より桁違いに強力な心――を生み出す。
- 提唱者: I・J・グッド、エリエザー・ユドコウスキー
この三つのシンギュラリティ論は、論理的に別々のものだ。ここで注目したいのは、三つの基本的な主張は互いに支え合う一方で、三つの強い主張は互いに矛盾しがちだ、という点である。
人間より賢いAIが登場する時点を越えて、現在の形のムーアの法則を外挿し、2099年について予測するなら、それは事象の地平線説の強い版にも、知能爆発説の強い版にも反する。前者によれば、人間を超える心の考えを先読みしようとしている以上、予測はできない。後者によれば、人間より賢い心とナノテクノロジーによって進歩がトランジスタの速度で動く段階に入れば、進歩はさらに速くなるからだ。
だから私は、この三つの考え方をぐちゃぐちゃに混ぜて、シンギュラリティのペーストにしてしまうことに、とてもいら立つ。明晰に考えるには、区別しなければならない。
だが、もっといら立たしいのは、シンギュラリティについての新聞記事を紹介するブログ記事を読んだ人が、三つの興味深い主張のどれも理解せず、あの忌まわしい第四の意味を、ひとりでに再発明してしまうことだ。
- 終末論: なあ、聞いたか? なんかイカれたオタク連中がいてさ、何だかよくわからないけど、オタク的なとんでもない大事件が起きるって信じてるんだってよ。どうかしてるだろ! オタクの宗教だよな。
シンギュラリティを定義しようとする試みは、ほかにもたくさん聞いてきた。だが、たいていは前提と結論の区別がないと感じる。たとえば、昔のエクストロピアンのFAQは、「シンギュラリティ」を変曲点、つまり「技術の発展が最も速くなる時点」で、その直後から減速が始まる時点として定義していた。しかし、その定義とは別に、歴史上のその時点の何が興味深いのだろう? この仮定から何が導かれるのだろう? 一つの学派、あるいは一つの説とさえ呼べるものにするには、定義だけでなく、内部に論証の構造が必要だ。
「シンギュラリティ」という用語の元来の意味がどれか気になっているなら、それは、この言葉を作ったヴァーナー・ヴィンジの事象の地平線説である。