世界の計算能力は現在どのように分布しており、今後はどうなるのでしょうか?
この問いは、AGIの安全性戦略におけるいくつかの問題と関わります。三つだけ例を挙げます。
- 大国の政府や大企業が、AGIや全脳エミュレーション(WBE)の実現を目指して、計算能力を急速かつ大幅に増強したいと考えた場合、どれくらいの速さで実行できるでしょうか?
- 政府が、AGIやWBEは国家安全保障上の脅威や世界的なリスクをもたらすと考えた場合、どれだけの計算能力を、どれくらいの速さで制限できるでしょうか?
- 既存のコンピューターを現在の稼働水準ではなく、能力のほぼ100%で動かすだけで、うまく機能しているボットネットや政府は、どれだけの追加の計算能力を「即座に」得られるでしょうか?
これらの問いを調べるため、MIRIは最近、ヴィプル・ナイクに委託して、現在の動向も含め、世界の計算能力の分布についてデータを収集してもらいました。このブログ記事では、いくつかの問いに簡潔に答える形で、初期調査の結果をまとめます。ナイクの調査ノート全体は こちら から読めます(22ページ)。この調査は、今後この話題をもっと徹底的に調べるための、手早く大まかな出発点を提供することを目指しています。
Q:世界の計算能力は、高性能計算クラスター、通常のクラスター、デスクトップコンピューター、そのほかに、それぞれどれくらい分かれているのでしょうか?
A:計算は、特定用途向け集積回路(ASIC)と汎用コンピューティングに分かれます。HilbertとLopez(2011a、2012a、2012b)によれば、汎用コンピューティングで行われる計算の割合は、1986年の40%から2007年の3%へ低下しました。傾向線からは、さらなる低下が示唆されます。
汎用コンピューティングの中での、2007年の内訳は次のとおりです。
- 設置済みの計算能力:PC(ノートPCを含む)66%、ゲーム機25%、携帯電話・PDA 6%、サーバー・メインフレーム3%、スーパーコンピューター0.03%、電卓0.3%。
- 実効総計算能力:PC 52%、ゲーム機20%、携帯電話・PDA 13%、サーバー・メインフレーム11%、スーパーコンピューター4%、電卓0%。
さらに詳しいデータは、ナイクの調査ノートの2.2節と、HilbertとLopez(2011b)のE節を参照してください。
Q:誰が、どこで、何のために使っているのでしょうか?
A:上の回答と、ナイクの調査ノートの3節を参照してください。
Q:毎年、どれくらいの能力が追加されているのでしょうか?
A:1986~2007年のデータを使うと、増加率と倍増期間は次のとおりです。
- 汎用計算能力:年58%増、倍増期間18か月(ナイクの調査ノートの2.2節参照)。
- 通信:年28%増、倍増期間34か月(同2.3節参照)。
- 記憶容量:年23%増、倍増期間40か月(同2.4節参照)。
- 特定用途向け計算:年83%増、倍増期間14か月(同2.2節参照)。
期間ごとのデータの内訳は、HilbertとLopez(2011a)にあります。特に重要な箇所の引用は、ナイクの調査ノートの対応する各節にも含まれています。
Q:計算需要が増えたら、短期・中期的にどれくらいの速さで能力を拡大できるでしょうか?
半導体産業は需要の変化にかなり敏感に対応し、受注額を出荷額で割った比率(BBレシオ)が1.4に達するほど高くても、6か月以内に追いつきます(ナイクの調査ノートの3.2節参照)。また、Bitcoinの代替で、ASICへの耐性があるとされるLitecoin向けにも、開始から2年以内で、すでにASICが出荷間近になっているという事実があります。これも、経済的な誘因が十分に大きければ、比較的速く対応できることを示唆します。高頻度取引(HFT)の場合も、ナノ秒単位の計算や、シカゴ―ニューヨーク間、ニューヨーク―ロンドン間のケーブルの遅延をミリ秒単位で削ることへの巨額の投資は、大きな誘因への素早い対応を示唆しています。
Q:専用ハードウェア(FPGA・ASICや、それらの将来の類似技術)からは、どれくらいの計算能力が得られると考えられるでしょうか?
A:その割合は増加すると予想されます(汎用コンピューティングの割合が1986年の40%から2007年の3%に低下している点に注目してください)。ただし、ASICやFPGAのようなものは、実際のところ別の用途に転用できないため、既存のものは新しい課題にあまり役立ちません。
Q:このような動向のデータを報告するための、標準的な取り決めはどうなっているのでしょうか?
A:Hilbert、Lopezらの研究によって、いずれデータの報告や伝達に統一的な取り決めができ、これらの問題をより十分な情報に基づいて論じられるようになるかもしれません。ただし、とりわけMartin Hilbertは、原理的には可能だと考えているものの、近い将来の標準化には懐疑的です。詳しくはHilbert(2012)を参照してください。一方、Dienes(2012)は標準化を支持しています。