リーン・スタートアップの手法は、非営利組織にも使えるのでしょうか。
『リーン・スタートアップ』の著者エリック・リースは、使えると考えているようです。
スタートアップとは、極めて不確実な状況のもとで新たな製品やサービスを生み出すために設計された、人間の組織である……。極めて不確実な状況で新たな製品や事業を生み出そうとしている人は、自覚があろうとなかろうと起業家だ。政府機関で働いていようと、ベンチャー投資を受けた企業、非営利組織、あるいは投資家が資金を提供する明らかに営利目的の企業で働いていようと、そのことは変わらない。
この1年間、私は新しい非営利組織を一つ(Center for Applied Rationality)立ち上げるのを手伝い、以前からあった非営利組織を一つ(MIRI)大幅に刷新し、数多くの非営利組織のCEOや責任者の相談に乗ってきました。そこで、「リーンな非営利組織」という考え方について、現時点で考えていることをお伝えしたいと思います。
フィードバックを短い周期で回す
フィードバックを短い周期で回すことは、リーン・スタートアップのアプローチの要です。新しい組織に向けてリースが勧める進め方を、3つの手順にまとめてみます。
- 「実用最小限の製品(MVP)」をできるだけ早く世に出し、学び始める。 たとえば、Zapposの創業者ニック・スウィンマーンは、顧客が靴をオンラインで買いたがっているという仮説を検証しようとしました。膨大な靴のデータベースを備えたウェブサイトを作る代わりに、地元の靴店に話を持ちかけ、店頭在庫を写真に撮ってオンラインに掲載し、自分のサイトで注文が入ると、その靴を店で定価で購入したのです。この仕組みのまま規模を拡大することはできませんでしたが、自分の製品が成り立つのかを知るのには役立ちました。
- 顧客が求めているものを正確につかむ。顧客に尋ねるのではなく、A/Bテストを含む数多くの実験を通じてつかむ。 たとえば、Dropboxの共同創業者ドリュー・ヒューストンが、手間をかけずにファイルを同期したいかと尋ねたとき、ほとんどの人は「いいえ」と答えるか、説明されてもその概念を理解できませんでした。しかし、顧客自身も自分が何を求めているか分かっていなかったのです。初期版の製品は人気を博し、何百万人もの人が、手間のかからないファイル同期が欲しかったのだと、突然気づきました。(「それは本当の反対理由ですか?」も参照。)
- 学んだことから必要だと分かったら、ピボット(方向転換)する。 たとえば、リースは6か月を費やして、自社の3DインスタントメッセージングソフトウェアIMVUを、普及しているインスタントメッセージング(IM)ネットワークと連携させるコードを書きました。ユーザーは新しいソフトの使い方を覚えたり、友達リストを作り直したりしたくないはずだ、という考えからです。ところが、ようやく製品を試してみると、ユーザーは独立したIMネットワークを求めており、新しいIMソフトの使い方を覚えることも苦にしていないと分かりました。そこでIMVUの開発者たちは方向転換し、IMネットワーク間の相互運用のために書いた数千行のコードを捨てました。
では、このアプローチは非営利組織にも使えるでしょうか。
利益と使命
リースの次の一節は、この点を考えるうえで示唆的です。
スタートアップの目標は、何を作るべきか、つまり顧客が欲しがり、お金を払ってくれるものが何かを、できるだけ早く突き止めることだ。
企業の目標は利益を上げることです。そのため、話が単純になります。営利目的のスタートアップは、顧客がどの製品やサービスにお金を払うか分かるまで実験を重ね、その製品やサービスを開発して利益を上げればよいのです。
しかし、設立時の使命を果たすことを犠牲にして、ひたすら成長だけを追い求める非営利のスタートアップは、よく「道を見失った」、目的を見失う罠にはまったと言われます。余ったスーパーボウルのTシャツをザンビアで配れば、好意的に報道してもらえます。また、ワールド・ビジョンが間接費比率を下げるのにも役立ちます。ですが、効率よく人々を助けることには、おそらくつながりません。
ただし、リースの議論を好意的に読めば、ビジョン、戦略、製品を区別することで、この問題に答えていると考えられるかもしれません。
スタートアップには……目指す到達点がある……。私はそれを、スタートアップのビジョンと呼ぶ。そのビジョンを実現するために、スタートアップは戦略を用いる。戦略には、ビジネスモデル、製品のロードマップ、協力相手や競争相手に対する見方、誰を顧客とするかについての考えが含まれる。その戦略が最終的に生み出すものが製品だ。
製品は最適化の過程で絶えず変わる……。頻度はそれほど高くないが、戦略も変えなければならないことがある。これをピボット、つまり方向転換と呼ぶ。しかし、全体を貫くビジョンはめったに変わらない。起業家は、スタートアップをその到達点まで導ききる覚悟を持っている。
……私たち[IMVUのメンバー]は、自分たちの仕事とは、自分たちのビジョンと、顧客が受け入れてくれるものとを両立させる方法を見つけることだ、と考えるようになった。顧客が自分では欲しいと思っているものに屈することでも、何を欲しがるべきかを顧客に教えることでもない。
非営利組織は、当初の使命、すなわちビジョンを守りながら、短い周期のフィードバックを使って、その使命を果たすのに最も適した具体的な戦略や製品を見つけていけるのではないかと、私は思います。